オプション取引の実践

 
  日経平均が上昇すればコールオプションの価格は上昇し、反対にプットの価格は下落することは既に理解できていることでしょう。
またオプション取引では原限資である日経平均の変数のほかにも、満期までの期間、ボラティリティ(予想変動率)、金利などオプション価格に影響を及ぼす変数があることについては既に説明してあります。その変化を示す指標にはデルタ、ガンマ、べガ、セータがあり、それらはオプションのリスク・パラメータと呼ばれています。
オプション取引での投資効率を上げるのにも、その変数の変化によってオプション価格がどのように変動するかを押えておく必要があります。

オプション価格決定の変化を示す指標(尺度)

デルタ(凵j

オプション価格に影響を与える最も大きい要因は、原資産である日経平均の変化です。その日経平均の動きに対するオプション価格の変化度を表す指標がデルタと呼ばれるものです。
例えば、日経平均が100円上昇してオプション価格が40円上昇したのであれば、その比率は0.40です。 50円であれば0.50となり、この比率をデルタと呼びます。

オプション価格の変化÷日経平均の変化
          40円÷100円=0.40
          50円÷100円=0.50
         100円÷100円=1.00

デルタが0.50であれば、日経平均が1単位上昇すればオプション価格が0.5上昇することを示すことになります。そして行使価格と日経平均が同じところ、アットザマネーでは約0.50で、インザマネーになるほど1に近づきアウトオブザマネーになるほど0に近づくことになります。0に近づくとは、日経平均が行使価格を大きく下回る程オプションの価格は日経平均の動きに反応しなくなるということです。
プットのデルタは、日経平均が上昇してオプション価格が下落するのでコールとは逆になり比率の前に(−)の符号が付けられています。
    コールが0.50に対して、プットは−0.50。
1単位でなく金額でいえば、デルタが0.50ということは日経平均が200円上昇すればオプションは100円上昇することを示しているのです。これは、同時に日経平均が200円下落すればオプションは100円の損失になることを表しているわけですから、デルタは損益の度合いを示す指標ということになります。
プットのデルタは−0.50ですから、コールとは逆に日経平均が200円上昇すれば価格は100円程下落すことになるわけです。

このデルタはオプション取引では重要な指標です。
デルタをニュートラルにする… デルタ・ニュートラル、プロがよく使う言葉 です。これはデルタをゼロの状態にしておけば、日経平均の変動に影響 されずに時間価値の減少や、ボラティリティの上昇・下落を利用して利益 をあげることができるからです。
皆さんも、複数のオプションの組み合わせや先物との組み合わせなどで 工夫してみては如何でしょうか。
  オプション・アナライザーでは簡単にシュミレートができます。

ガンマ(γ)
デルタは日経平均と行使価格の水準によってコールは0から1、プットは−1から0まで変化します。このデルタについて、日経平均が1単位変化したときにデルタ値がどれだけ変化するかの比率を示す指標がガンマです。アットで最大になり、イン、アウトになるにつれて減少していきます。

べガ(ν)
ボラティリティ(予想変動率)が1%変化したときに、オプションの価格がどれだけ変化するか示す指標です。ベガ゙はカッパとも呼ばれています。
ボラティリティに関しては、別に詳しく説明します。

セータ(θ)

オプション価格は時間の経過とともに減少していきますが、セータは一日ごとに時間価値がどの程度減少するかを示す指標です。満期に近づくと減少は急激に大きくなり、満期には0(ゼロ)になります。
オプション価格の一日当りの減少幅といえるでしょう。

価格変化を示す指標=オプションのリスク・パラメータ
 
オプション価格の変化
 
デルタ

 
日経平均株価の変化

 
デルタの変化
 
ガンマ

 
日経平均株価の変化

 
オプション価格の変化
 
ベ ガ

 
ボラティリティの変化

 
オプション価格の変化
 
セータ

 
期間の変化

まとめ


日経平均は上昇したが、上がる筈のコールオプションの価格が下落してしまった!
これは特別ではなく、しばしば見られる現象です。日経平均の上昇によるオプション価格の上昇よりも時間価値の減少の方が大きかっただけのことです。満期日までの期間が極端に短いか、日経平均の上昇に時間が掛かれば当り前のことなのです。
やはり、価格形成の仕組みを理解しておくことは重要です。

ボラティリティ=予想変動率
「ボラティリティが上昇した」 とか 「プットのボラティリティが下がった」
「コールのボラティリティの方ガ高い」 などといった表現でオプション市場の動向が伝えられています。
ボラティリティとは何を意味しているのでしょうか?
オプションの対象商品である日経平均株価の値動きの大きさで、上下に振れる振幅の度合いを示すものです。日経平均が上下いずれかの方向への変動性向でもあり、オプション価格の時間価値に最も影響を与える指標です。
そしてボラティリティが重要なのは、価格の変動が大きければそれだけも儲かったり損をしたりする機会が多くなるからです。
オプション取引では、二種類のボラティリティの推定法があります。

ヒストリカル・ボラティリティ(HV)・・・過去の指数(日経225)の変動率から算出され、過去の相場の変動率を平均化したものといえるでしょう。
日経新聞では、過去20日間の日経平均の変化率からヒストリカリ・ボラティリティを算出して 日経平均HVとして発表しています。

インプライド・ボラティリティ(IV)・・・オプションの市場から将来の変動率を予想するものです。過去の動きとは別に、投資家の将来に対する見通しが反映して現実の変動率を表すものとされています。
これまで説明した変数とオプション価格から変動率を求めるもので、日経平均 IVとして日経新聞に掲載されています。

前に説明しましたべガとは、このボラティリティが変化したときどれだけオプション価格に影響を与えるかを示す指標です。

オプション取引の戦略

オプションには価格決定の要素として株価変動以外に、時間価値や予想変動率(ボラティリティ)といった株式や先物にはない特殊な性質があることはもうお分かりでしょう。オプション取引ではその特質を十分に生かすことによって、的確な相場の予測ができなくても利益を得るチャンスを提供してくれます。相場の先行の予測がなくても儲けることができるのが、株式や先物と大きく違うところです。
オプション取引は、理詰めの投資家にとってはかなり魅力がある商品の筈です。

日経オプションの基本の取引としては、コールまたはプットの買い、売りだけの単純な戦略です。そして、「売り」と「買い」以外に「売り」と「買い」を組み合わせるスプレッドやコンビネーションなど複雑なポジションの取り方があります。この組み合わせの方法によって相場が上昇しても下落しても利益の出せる状態を作ることができ、そこが株式や先物取引とは違うオプションの有利性でもあるといえるでしょう。

アンカバーポジション

コールまたはプットの買い、売りだけの単純なポジションで、四つの基本型があります。買い手は相場が予測通りに動いたときには大きな利益になり、損失も限定できます。逆に売り手は利益が限定され、損失は無限に拡大する心配があります。

コールの買い
相場が強気の場合に有効です。相場の上昇があれば利益は無限に広がります。
しかし相場感が外れても損失は限定で、支払ったオプション料のみです。

コールの売り
買いとは反対に、相場がもみ合いか弱気のときにはコールを売ります。時間価値の減少を狙った戦略で、オプション価格が割高な時に有効な手法です。

プットの買い
相場は下落と予想したときには、プットを買います。予想通り相場が下落すと利益は無限に拡大しますが、相場が上昇しても損失はオプション料のみに限定されます。

プットの売り
相場の上昇時にはオプション料分の利益は確保されますが、下落時には損失は限定されていません。コールを買う程でもない相場に向く戦略。

コール・プットの買いの利益は無限といっても日経平均の動く範囲内、そして時間価値の減少もあるので時間の経過に注意が必要です。

取引には「売り」と「買い」以外に、「売り」と「買い」の組み合わせを同時に仕掛ける戦略があり、これを「スプレッド取引」といいます。オプション取引においてはその組み合わせは無数にあるといわれていますが、その代表的なものを紹介します。

ここからはカタカナ文字の呼名が続きますが、それを無理に覚えるよりもその中身を理解することこそが大切です。重要なのは呼称ではなく、組み合わせの考え方です。
自分なりの組み合わせと名前を考えてみては如何でしょう?
オプション・アナライザーで、組み合わせと損益の関係をシュミレートしてみましょう。
そのためにオプション・アナライザーがあります。

 確認しながらお読み下さい。


パーティカル・ブル・スプレッド

同じ限月のコールまたはプットで権利行使価格の高い方を売り、低い方を買う戦略。売り買い同枚数で、プットの場合も同じです。 
売り買い同枚数で、プットの場合も同じです。
相場が上昇したときに売ったオプション料に利益は限定されますが、相場が下落したときでも差引きのオプション料のみに損失は限定
できます。コールとプットのどちらでも損益グラフは同じです。
権利行使価格の違う2銘柄で、オプション価格の開きを利用する手段です。
 

パーティカル・ベア・スプレッド

相場の先行きが弱いとみたときのスプレッドで、行使価格の高い方を買い低い方を売ります。
利益は相場の下落に発生しますが、オプション料の差し引きに限定されます。相場の上昇には損失になっても、差引きのオプション料に限定され損益図はブル・スプレッドと対称的になります。  

枚数を1:1でなく、コールの買い1枚に対してコールの売りを2枚と比率を変えるレシオ・コール(プット)・スプレッドなどもあります。

カレンダースプレッド

オプションの時間価値の差を利用して、同じ行使価格で異なった限月のオプションを組合わせる戦略です。

ホリゾンタル・スプレッド
期近(期日までの期間の短い)のオプションを売り期先の銘柄を買うことで、時間価値の減少する差を利益にする方法です。相場が上昇したときに生ずる期近の売りの損失は、期先の値上りでカバーできる仕組みです。

ダイアゴナル・スプレッド
期近で行使価格の高い銘柄を売り、行使価格の低い期先のものを買う方法です。

コンビネーション

コールとプットの買い、または売りを組合わせたポジションです。

ストラドルの買い
同一限月で、同一行使価格のコールとプットを同時に買う組み合わせです。
相場の先行きが読めないが、近々に上か下のどちらかに大きく 振れる可能性があるとみたときの戦法です。予想に反して相場 が動かないと損失になりますが、その損失は支払ったオプション料 の合計の範囲に限定することができます。
 

ストラドルの売り
ストラドルの買いとは反対に、同一限月の同一行使価格のコールとプットを売るもので、持ち合い相場で変動の少ないときに有効です。日経平均が動かないときに時間価値が減少した分が利益になりますが、相場が大きく振れると損失が大きくなる危険性があります。損益グラフは、ストラドルの買いと対称的になります。

ストラングルの買い
ストラドルと違って行使価格の違う組み合せで、日経平均よりも 高い行使価格のコールと行使価格の低いプットを買うものです。
両方ともアウトになるので支払うオプション料はストラドルよりも 安く済み、最大の損失も支払うオプション料の合計で済みます。
 

ストラングルの売り
行使価格の高いコールと行使価格の低いプットを売ります。相場が小動きの時期には効力を発揮して、売ったオプション料の合計が利益になりますが、その幅を越えて相場が動いたときには損失になります。  

バタフライの買い
同一限月で行使価格の異なる三つのオプションを組み合せる 方法です。行使価格の高いものと低いものを1単位ずつ売り、 その中間の行使価格のオプションを2倍買います。損失は限定 されますが、相場が一定以上振れないと儲けにはなりません。  

バタフライの売り
行使価格の高いものと低いものを1単位ずつ買い、中間の 行使価格のものを2倍売る組み合せです。相場の動きの 少ない時の戦略としては、ストラングルの売りやストラドルの 売りと同じですが損失が無限ではなく限定されるところが違います。  

単純なオプションの買い・売りも、組み合わせ方によって損益の発生が大きく変ります。リスク限定から無限、利益の確定から無限へ…

皆さんも、各種の組み合せから合成ポジションの損益を想像したり、また予測しながらオプション・アナライザーで損益グラフのチェックをしてみませんか。

時間価値の減少を狙ってコールオプションを売り、
     無限のリスクをカバーするために先物を買う…
        デルタが0.50なので、コール2枚に対して先物は1枚


 
ポジションの呼名はともかく、どんな損益グラフになるのでしょうか?
想像してから、参考図をクリックして確認してみましょう。


 

竹内投資研究会   メールでのお問い合わせは: support@takeuchi.gr.jp 
〒167-0034
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